Yamasaki 2008年1月・2月の我が家の出来事-4



シニアによるコンサート2つ

ハンク・ジョーンズ バート・バカラック

まずは、ブルーノート東京で行なわれた90歳のハンク・ジョーンズの「グレイト・ジャズ・トリオ」による、ジャズ・コンサート(左写真:演奏前)。ハンク・ジョーンズは、暗譜しているスンダード・ソングが1000曲を下らない、「ミスター・スタンダード」の愛称でも知られているそうである。いまだに「もっとピアノがうまくなりたいと」と研鑽を積んでいるとのことで、最初の数曲はぎこちなかったものの、中盤からはとても90歳とは思えないほどの「ノリ」で、こちらも安心して楽しめた。

もうひとつは、東京国際フォーラムで行なわれた80歳のバート・バカラックによる、ポップス・コンサート(右写真:演奏前)。バート・バカラックは、ポップス界、映画音楽界の巨匠であるが、徹には大好きなキャサリン・ロスが出ていた「明日に向かって撃て」の中の「雨にぬれても」の作曲者として有名である。コンサートでは、なじみのあるたくさんの曲が、つれてきた歌手たち(そのうちの男性歌手はとても伸びのある声で感激した)によってメドレー風に歌われたが、バート・バカラック自身も数曲歌った。徹にはとてもうまいとは思えなかったのだが、ファンからすればもう高齢なので聞くチャンスもなくなるかも知れない彼の声を聞けたことはとても素晴らしいことだったようである。でも、1曲にして欲しかった、、、、、。

柳澤桂子著「二重らせんの私」

二重らせんの私

柳澤桂子という人を知ったのは、NHKで「柳沢桂子が般若心経について語る」という番組をたまたま見たことが最初だったと記憶している。NHKが彼女を取り上げたのは、生命科学者だった著者が難病に冒され立ち直ったあと到達した心境をベースに訳述した般若心経がベストセラーになっていたためであった。しかし、求めて読んで見た現代詩調「般若心経」は、残念ながらあまりピンとこなかった。しかし、今回たまたまAmazonで見つけて読んだ「二重らせんの私」という本は、著者が上記病魔に冒されるまでの自己の成長をふり返った長篇エッセイであり、久しぶりに感動した本だったので紹介する。

この本のAmazonでの紹介欄には「学究の溢れかえるほどの喜びを綴る珠玉の長篇エッセイ」とある。確かに著者が留学先の米国コロンビア大学で高名な科学者達から当時最先端の遺伝子生物学を直接学ぶ機会を得て、多くを学んだことに対する純粋な喜びや興奮が、とても良く伝わってくる。特に、著名な研究所での講演とPhDをとるための最後の口頭試問でのエピソードは、著者の「幸運」(もちろん異国での大変な苦労に対する当然の報酬ではあるが)に思わず拍手喝采したくなるほどだ。また、本の中で紹介される遺伝子生物学の実験とその解説は、歴史的な大実験であるにもかかわらず、素人にもわかりやすく興味をそそらせてくれる。科学をめざす若い人には是非薦めたい本である(実際徹は、大学で生物学を専攻しようとしている友人の娘さんにこの本を贈った)。

でも、徹が感激したのは、実は著者の留学時代の内容だけではなく、著者が子供のころに「いのち」に出会ったときのエピソードとその文章に現れている感受性の高さである。以下に抜粋する。

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ある日、父におそるおそる聞いてみた。「お花は折られても痛くないの?」父は確信を持って「痛くない」と答えた。植物には神経がないという。植物学者のいうことだから正しいのだろう。でも、もし間違っていたら? 道ばたに折れたタンポポの茎から白い液が溢れていると、私のこころは痛んだ。折られたタンポポの傷口は、次の日には茶色くなって乾いていた。タンポポには、私たちにはわからない苦しみかたをしないと、ほんとうにいえるのだろうか。

(中略)

野原にはよく小さい犬や猫が捨てられていた。箱の中に布を敷いて捨てられているもの、野原の草の中に放置されているもの、それぞれに力のかぎり声をあげてないていた。もちろん、私は素通りすることはできない。すべて拾って家に持ち帰るので、季節によっては子犬や子猫の世話に追われることになる。
(中略)
私は一匹死ぬごとに泣いた。死の静寂にふさわし静かさで涙を流し続けた。生き残ったものの流す涙は、雨になって死者に降り注ぐと母に言われた。私は、目に涙を貯められるだけためて、それが滴になって落ちないうちにふき取った。誰もいない庭の隅でそうやって泣き続けた。あの小さいいのちのために誰かが思いきり涙を流してやらなければ、生まれてきたいのちがあまりに惨めなように思われた。

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その内容は、著者が生物学者を志し成功する理由になっているし、その文章はこの本が日本エッセイストクラブ賞を受賞した理由にもなっていると思う。



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